iDeCo(イデコ)との
上手で賢い付き合い方

マーケット急変時のiDeCoとの付き合い方

マーケット急変時のiDeCoとの付き合い方

公開日: 2020年10月29日
大山 弘子

大山 弘子 /
ファイナンシャルプランナー

リーマンショック以降、世界の株価が概ね堅調に推移したこともあり、投資信託の純資産残高も比較的順調に伸びてきました。しかし、新型コロナウイルス感染拡大をきっかけに相場が大きく変動。iDeCo(イデコ)の加入者の中には、初めて下げ相場を経験して動揺した人もいるのではないでしょうか?
今後マーケットが大きく動いたときに、iDeCoの加入者はどのような行動を取るのがいいのでしょうか。マーケット急変時のiDeCo運用について改めて考えてみましょう。

1. マーケット急変時でも、売り急ぐことはNG!

2020年2月下旬以降、新型コロナウイルスの感染拡大によって経済が失速するという懸念から、世界各国のマーケットで株価が急落する場面がありました。これをお読みの方のなかにも、相場が急変したことで不安を感じ、「iDeCo口座で保有している株式投資信託を売却して、元本確保型商品に買い換えるスイッチング(預替え)をしたほうがいいのでは?」と考えた人もいるかもしれません。
ですが、マーケットの変動に狼狽して、保有商品を売り急ぐことは得策とは言えません。

指図から実際に預替えが完了するまでには、大きなタイムラグがある

iDeCoで運用商品をスイッチングする場合、売却の指図をし、売却の手続きが完了したのちに、購入の注文が出されます。

図1)スイッチング(運用商品預替)手続きの流れ

図1 スイッチング(運用商品預替)手続きの流れ

しかも、定期預金以外の商品は、約定日から受渡日までに4営業日ほど必要です(図2)。そのため、売却の指図をしてから元本保証商品への預替えが完了するまでにタイムラグが生じることになります(図3、4)。
その間に相場が大きく動いた場合には、思ってもみなかった価格で約定する場合もあるでしょう。その結果として、運用成績に大きな影響が出ないとも限らないのです。

図2)売却の手続きにかかる日数の例

図2 売却の手続きにかかる日数の例

図3)購入の手続きにかかる日数の例

図3 購入の手続きにかかる日数の例

図4)海外資産を含む投資信託から定期預金にスイッチングする場合の例

図4 海外資産のを含む投資信託から定期預金にスイッチングする場合の例

元本確保型商品のみにしないほうがいい理由をドルコスト平均法で解説

マーケットが大きく下がると「値動きがある商品は怖い……」と感じて、保有する資産をすべて元本確保型商品にスイッチングしたくなる人も少なくありません。ですが、これも得策とは言えません。
iDeCoで投資信託を購入する場合には、自分が選んだ投資信託を毎月一定額ずつ、自動的に買い付ける「ドルコスト平均法」と呼ばれる方法で投資信託を積み立てていきます。この「ドルコスト平均法」では、投資信託の基準価額が高いときは買い付ける口数が少なく、逆に基準価額が低いときには口数が多くなります(図5)。

図5)ドルコスト平均法の効果

図5 ドルコスト平均法の効果

図5のケースでは、1年たった時点の投資総額は120,000円(毎月10,000円×12か月)、投資信託の総口数は27,123口になっています。
12月時点での1口の価格は5円ですから、保有する投資信託の評価額は135,615円(5円×27,123口)となり、投資総額に比べて15,615円(135,615円-120,000円)の利益が出ている計算になります。価格が高いときには少なく、価格が低いときには多く買えたことで、投資信託1口あたりの投資価格が平準化され、結果的に利益を出すことができたのです。
このようにドルコスト平均法から考えても、iDeCoでは、マーケットの下落時も元本確保商品のみにしないほうがいいと言えそうです。

2. iDeCoは長期運用なのでリバランスが大切

長期間運用を続けるiDeCoでは、定期的に「リバランス」と呼ばれるポートフォリオ(保有資産の組み合わせ)のメンテナンスを行うことが必要です。「リバランス」とは、マーケットの変動などによって、当初の資産配分が崩れてしまったポートフォリオを元の資産配分に戻すことをいいます。
株式投資信託など値動きのある資産で運用する場合には、時間が経過するに従って資産の配分が当初の設定とは変わってしまうことがあります(図6)。

図6)リバランスのイメージ

図6 リバランスのイメージ

図6のケースでは、株式市場の上昇によって株式投資信託の配分が当初よりも25%も多くなっています。このままほったらかしておいた場合には、値動きのある資産の配分が高い状態が続いて、本来自分が取れるリスク許容度を超えてしまう可能性もあるのです。
そこで、年1回など定期的に資産の配分を確認して、当初の資産配分とのズレが大きい場合には、資産の一部を売却したり、購入したりすることで元の割合に戻す「リバランス」を行い、資産全体のリスクをコントロールすることが必要になります。

3. 受け取りが近い人は利益が出ているときに元本確保型商品にスイッチング(預替え)を

前述のとおり、iDeCoで投資信託を購入する場合には、自分が選んだ投資信託を毎月一定額ずつ、自動的に買い付ける積立投資を行います。

積立投資では、マーケットが大きく下落したときには購入できる投資信託の口数が多くなるため、マーケットが上昇に転じた際にはそれがプラスに作用することを期待できます。マーケットの下落(値下がり)は多くの口数を買い付けるチャンスとなることから、iDeCoでは加入期前半の値下がりはメリットということもできます。

一方、加入期の後半にマーケットが下落した場合には、運用終了時までマーケットが回復しないケースもないとも限りません。その場合には、運用終了時に保有する投資信託の評価額が投資総額を下回る、つまり損失が出てしまう可能性もなきにしもあらずです(図7)。

図7)加入後半の値下がりはデメリット

図7 加入後半の値下がりはデメリット

つまり、加入期後半の値下がりはデメリットといえるでしょう。
定年退職の時期が近づいているなど運用資産の受け取り時期が近い場合には、利益が出ているときに元本確保型商品にスイッチングするなどして、利益を確定しておきましょう。

まとめ

自分自身が運用した成果が将来の年金額に反映されるiDeCoでは、目先の資産の増減やマーケットの変動に一喜一憂せず、長い時間をかけて着実に資産を増やすことが重要です。そのためには、資産運用のリスクと上手に付き合うことが必要といえます。ちなみに、資産運用でいうリスクとは、危険ではなく、価格の変動幅やその大きさを指します。積立投資のメリット・デメリットを理解したうえで、マーケットの急変に対処する意識が大切です。

この記事のポイント

  • iDeCoではマーケット急変時でも売り急がない
  • マーケットの下落時でも元本保証型商品だけに預替えしない
  • 受け取り時期が近い人はしっかり利益確定する
大山 弘子

大山 弘子(おおやま ひろこ)

ファイナンシャルプランナー

ライター、ファイナンシャルプランナー(AFP)、2級ファイナンシャル・プランニング技能士。大手旅行代理店、教育専門誌編集記者を経てフリーに。現在、ビジネス誌、マネー誌などで経済、マネー、人材の評価・育成に関する記事を中心に執筆。得意分野はETF(上場投資信託)、投資信託、新興国の経済および株式投資。