iDeCo(イデコ)との
上手で賢い付き合い方

iDeCoの受け取り 自営業の出口戦略

iDeCoの受け取り 自営業の出口戦略

公開日: 2020年11月11日
大江 加代

大江 加代 /
確定拠出年金アナリスト

iDeCoの卒業である受け取りは、多様な選択が可能です。第1回「60歳以降の出口戦略 基礎編」では、受け取りの基本としてどんな受け取り方があるのか、そして受け取り方によって違う課税のルールについてお話ししました。今回は応用編として自営業の事例を使って計画を立てる際のポイントをご紹介していきたいと思います。

自営業の方の特徴は、何といっても定年がなくて、自分で何歳まで働くか決められること。そして国からの年金は国民年金だけですが、代わりに小規模企業共済や国民年金基金といった税制優遇のある老後資金準備制度が用意されています。積み立て可能額も小規模企業共済は月額7万円まで、国民年金基金はiDeCoと合わせてですが月額6.8万円と非常に大きいことから、これらの制度から受け取る資産額が相当大きい方が多いと思われます。つまり、これらの資産をiDeCoと同じタイミングで受け取ってしまうと課税対象額が大きくなってしまいますから、これを避けるというのが受け取り方のポイントになります。

現在59歳の自営業Aさんの例で、いろいろな受取パターンをまずは税額の観点から比較してみましょう。本来は住民税もかかりますが、今回は所得税だけを試算して比較してみます。

<Aさん>

iDeCoは60歳の積み立て終了時 加入期間10年、受け取り額500万円を予定
小規模企業共済は起業した当時に加入しており、65歳の廃業まで30年積み立て
65歳の廃業時に一括して受け取る予定額 2000万円

※小規模企業共済も積立期間や受け取りの事由といった条件を満たせば、分割して年金で受け取ることが可能です

【受取パターン1】
65歳でiDeCoと小規模企業共済をまとめて一時金で受け取り

iDeCoの年金受取の例

受取パターン

同じタイミングで受け取る一時金は合算して税金の計算をすることになります。
受取総額は iDeCo:500万円+小規模企業共済:2000万円=2500万円

利用できる退職所得控除 800万円+70万円×(30-20)年=1500万円
退職所得 (2500万円-1500万円)÷2=500万円
所得税を下の表に当てはめて計算すると 500万円×20%-42万7500円=57万2500円

(上記計算では復興特別所得税を加味していません)

課税される所得金額 税率 控除額
195万円以下 5% 0円
195万円を超え 
330万円以下
10% 9万7500円
330万円を超え 
695万円以下
20% 42万7500円
695万円を超え 
900万円以下
23% 63万6000円
900万円を超え 
1800万円以下
33% 153万6000円
1800万円を超え 
4000万円以下
40% 279万6000円
4000万円超 45% 479万6000円

約60万円もの税が差し引かれてしまいますから、受け取るタイミングをずらしたパターンを検討してみましょう。

【受取パターン2】
iDeCoを先に60歳で一時金で受け取り、小規模企業共済は65歳で一時金で受け取る

iDeCoの年金受取の例

受取パターン

小規模企業共済のようなiDeCo以外の退職一時金は、税金の合算の対象が過去5年間(正確には、前年以前4年以内)に受け取った退職一時金です。今回のパターンではiDeCoは小規模企業共済の受け取りから5年以上前に受け取っているので、iDeCoと小規模企業共済は合算されません。そして合算の対象でなくなると、加入していた時期が重複していても、それぞれの加入期間に応じた退職所得控除の枠が利用できることになり、課税額がグッと減ることになります。

具体的にどれぐらいの効果があるのか、60歳時に受け取るiDeCoの方からみていきましょう。

60歳時に受け取るiDeCo
受取額 500万円
退職所得控除 40万円×10年=400万円
退職所得 (500万円-400万円)÷2=50万円
これに対する所得税 50万円×5%=2.5万円

(上記計算では復興特別所得税を加味していません)

65歳時に受け取る小規模企業共済
受取額 2000万円
退職所得控除 800万円+(30年-20年)×70万円=1500万円
退職所得 (2000万円-1500万円)÷2=250万円
所得税を先ほどの表に当てはめると 250万円×10%-9万7500円=15万2500円

(上記計算では復興特別所得税を加味していません)

所得税概算 
60歳時:2.5万円+65歳時:15万2500円=
17万7500円

パターン1では60万円ぐらいでしたから、大きく減りました。この税額大幅削減のポイントは受け取るタイミングをずらしたことと受け取り順序にあります。iDeCoが先でなければいけません。iDeCoの一時金は、過去15年(前年以前14年)の間に受け取った退職一時金がすべて合算の対象になりますので、iDeCoが後ではパターン1と同じことになってしまいます。ちょっとしたことですが、受け取り順序とタイミングを工夫すると負担する税額が小さくできるということがお分かりいただけたのではないかと思います。
住宅ローンの返済などまとまった資金が必要でないという方の場合は、年金で少ししずつ受け取るという方法も有効です。

【受取パターン3】
iDeCoを先に60歳で半分を一時金、半分を5年の年金で受け取るケース

iDeCoの年金受取の例

受取パターン3

こうすると、iDeCoにかかる税金がさらに減ります。
60歳時に一時金として受け取るiDeCoにかかる税金からからみていきましょう。

一時金受取額 250万円
退職所得控除 40万円×10年=400万円
退職所得 (250万円-400万円)÷2=0(マイナスの場合は0とみなす)
これに対する所得税 0円

一方、年金にかかる税金は、受取額を運用を加味せず 年あたり50万円(250万円÷5年)と仮定すると、65歳未満の公的年金等控除が年金収入が60万円までの場合は60万円なので、

50万円-60万円=0(マイナスの場合は0とみなす)

となり、公的年金等控除の枠内に収まってしまうので課税対象になる額は0となります。
小規模企業共済にかかる所得税は【パターン2】と変わりませんから、トータルでは【パターン3】が所得税の面からは負担が一番小さくなります。生活費のプラスアルファとしても使いやすいでしょう。ただし、iDeCoは残高がある間は口座管理料がかかること、振り込みの都度給付手数料をとられることを加味する必要があります。ご自身の契約先の費用額を確認して、それも考慮に入れて検討してください。

ここまで、受け取りパターン別にコスト面から比較してきましたが、受取額に大きな影響を与えるのは売却時の価格であることを忘れてはいけません。第1回の基本編で、受け取るというのはそれまで育ててきたiDeCoの資産を売却して現金したものを受け取ることだと申し上げました。一時金として受け取るなら一気に、年金は複数回に分けて売却しますが、いずれも受け取り額はその時のマーケットに影響を受けることになります。もし、あなたがリスクの高い運用を行っているのであれば、手を打っておく必要がありそうです。自分が受け取りを開始しようと思う時期が数年先に見えてきたら、資産の割合を保守的にすることも考えてみてください。

今回は自営業のケースで、受け取り方を考える際のポイントを紹介しました。次回はサラリーマンのケースを取り上げてみたいと思います。

大江 加代

大江 加代(おおえ かよ)

確定拠出年金アナリスト

オフィス・リベルタス取締役。大手証券会社にて22年間勤務、一貫して「サラリーマンの資産形成ビジネス」に携わる。確定拠出年金には制度スタート前から関わり、25万人の投資教育も主導。確定拠出年金教育協会の理事として、月間20万人以上が利用するサイト「iDeCoナビ」を立ち上げるなどiDeCoの普及・活用のための活動も行っている。